2022/12/20
操体法

②「経絡学入門 基礎編」 藤田六朗著から読み解く、 橋本敬三と藤田六朗 二人の関係と理論



【前書き】
2019年8月から2021年8月までの3年間
有料 WEBマガジン 週刊あはきワールドに
「未病を治す」~身体のゆがみをなおす~操体法シリーズ 
というタイトルでを各回 複数の臨床家や関係者が持ち回りで
操体法に関する記事を26回にわたって掲載しました。
川名もその中で 数本の記事を書かせていただいた経緯があります。

ただ、その後 週刊あはきワールドは終刊となってしまいました。
つたない文章ですが、読んでもらえる機会が減ってしまったので
今回編集長の石井利久様のご厚意で ブログへの公開を許可していただきました。
川名の記事を今後5回に分けて このブログに公開していきます。

、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

週刊あはきワールド
2019年11月20日号 No.642
「未病を治す」~身体のゆがみをなおす~操体法シリーズ 第6回

*1「経絡学入門 基礎編」 藤田六朗著から読み解く、
橋本敬三と藤田六朗 二人の関係と理論
   
東京 川名操体治療室代表 川名慶子


序文
わたしは、身体均整師会学術委員会の活動の一環として、亀井進の講義録音源の整理、保存に関わっています。その活動の中で松島で行われた第41回全国講習会(S47.07.15)で橋本敬三(1897(M30)~1993(H5) 96才)が講義した音源を見つけて*2文 字お越し作業をしたのは、2017年のことでした。

もともと、オープンリールテープの状態だった音源をデジタル化したものを聞いたのですが、録音状態も悪く、東北なまりも加わり聞き取るのに難儀した作業でした。
そのような中でどうしても聞き取れない、わからない箇所の一つが、講義初めの挨拶のくだりでした。

”何年前になりますか奈良でりんかん学会(?)をやった時に倉田先生主宰なさいました時に均整協会のあちらの方の皆さん方が大変お世話になりましたことをここで改めてお礼申し上げます 。”
 
 
この謎の学会「りんかん学会(?)」が、「電探学会」だとわかったのは昨年暮れのこと、
日本操体学会事務局の橋本千春さんからの情報でした。
仙台温古堂、病院の引っ越し作業で書物を整理している中で、藤田六朗の作った*3自費 出版本を見つけてその中に会のことが書かれていたようです。
 
「電探学会」とは、藤田六朗を中心に(1957-1981年㋅)行われていた学会と思われます。改めてネットで調べていたら、昭和38年ごろの資料をみつけました。
学会誌ではないかと思われる資料ですが、
経絡現象と高次神経中枢 間中喜雄 1963

記事の最後の告知、昭和38年5月19日第6回大会予告には、
日本電探学会会長 橋本敬三 と書いてありました。



 
藤田六朗(1903年 -2004年 101才! )は医師。元北陸大学教授。専門は、東洋医学。1970年から国際鍼学会名誉会員を務め。1981年には第31回日本東洋医学会学術総会会頭を務めた。鍼灸界の当時中心人物の一人でした。
藤田の著作「経絡学入門 基礎編」創元社 1980年には、橋本の理論の紹介が何か所か出てきます。
橋本より6才若く共に長寿だった藤田の自費出版本の交友記録をみても二人は公私ともに親しい間柄であったようです。
 
本稿では、「経絡学入門 基礎編」の中から橋本に関する記載をリストアップし
藤田、橋本の関係を探り、 理論を検証してみました。



「経絡学入門 基礎編」目次構成と橋本関連の記載 リストアップ

序文
まず、驚くのが1ページ目の序文を書いているが、橋本ということです。
発行元 創元社は橋本の論文、投稿記事をまとめた「正体の歪みを正す 橋本敬三
論想集」1987年を出した出版社でもあります。「経絡学入門 基礎編」が1980年発行ですから、「正体の歪みを正す~」の発行に至る経緯にこのような出版物の発行も関係していたのかもしれません。

Ⅰ経絡の歴史
・著者以前の諸家の経絡説
   5人の理論紹介の中で橋本理論が最初に紹介されてます。
   これは、発表順 時系列での順番で、橋本理論が諸説に先駆けて、経絡と運動力学の関係を説いたことを書いています。

P4
歪みとは地球重力と自己の運動力と外力とにより影響される。氏は初めて経絡を歪みという異常状態から運動力学的に把握すべきことを提唱した。(1933年)

ただ、1933年に初めて提唱したという出典は不明です。
先の橋本論想集は1937年~1983年を執筆発表年代としておりそれ以前の文献は記載されていません。


Ⅱ問題提起
Ⅲ経絡論争
Ⅳ圧診点と丘診点
Ⅴ経絡の実証
Ⅵ経穴
   ・著者の筋主因説以後の経絡に関する研究並びに学説
    ここで再び複数の研究者の理論紹介のなかで橋本理論が”運動系の力学”として紹介されます。

P367
*4異常 感覚と運動系の歪み(日本医事新報 1957年10月)に記載してある運動系の原則をベースにまとめを約1ページを割いて紹介しています。
”運動系の力学”
1)運動系は全系統に相関連動装置になっている。

2)全運動系が相関連動装置になっている。

3)運動系に歪みが出来たら動かして最も痛みを感ずる方向と反対方向に逆モーションに誘導して急に脱力させると回復する(逆モーション誘導法)

4)腰に支点が集約されるようにすれば(気海丹田)、高能率に運動ができる。

(著者注:著者は大椎は筋肉の集合点としたが、橋本博士の説から、大椎は発生学的な筋肉の集合点であり、気海丹田は、人類が立位をとったため起こった運動力学的筋肉の集合点で、この2点は表裏および首尾に関して対称点である。)

5)平均集約運動法という操体法を提案し、これが生体のアンバランスを整調する。

6)運動系の組織は運動に際して、重力のかかる側が伸びる。この場合重心が問題となる。

7)ある目的をもった短い運動に際して、また力の入った動作は必ず呼気でやるか、または吸気を止めてやらねばならぬ。吸気で動作をしたら体が崩れてしまう。

これについて、藤田は以下のように補足、追記しています。

一方、骨格にも歪みが生ずることにより、体腔すなわち頭蓋腔、脊髄腔、胸腔、腹腔、骨盤腔にも歪みを起こし、これが内に蔵する内容機関の正常位置を変差させ、また一部を圧迫し、または牽引捻転など僅少といえども力学的直達影響を及ぼすのである。

運動系の歪みと内臓や中枢神経機能その間には可逆的相関閉鎖的な関係があるとしている。なお運動系の硬、軟両組織における配列や緊張の不調和の示現を、 姿の崩れや筋肉または皮下組織の凝りとして、視診は触診によって認識把握するものを静力学的変化とした
。生理的自然な円滑な関節運動が制限されて、これを無理に運動させようとすると痛みとしての感覚起こし、または歪みのまま運動せずに固定すると、これは長時間座位をとるとシビレるような異常感覚起こしたりするのものを動力学的変化とする。 

骨格とその枠組みによって生じる体腔という概念は、内臓など自律神経系のバランスを把握し身体を包括的連動器官として三次元的にとらえるときの重要な視点です。
また、後述する藤田の経絡理論のひとつの概念、経水(管腔外液)にも通じる記述です。

静力学的変化、動力学的変化という概念、
このくだりは、橋本の理論を藤田が端的にまとめた文章で
静力学的変化は、圧診点や丘診点として、視診触診で観察することができるもの
動力学的変化は、関節制限による異常感覚なので運動器検査、操体法の動診などで観察できるものといえます。

Ⅶ経絡学総括
後記
   最後の後記に至って、改めて、橋本が序文を書いたことに対しての謝辞が述べられています。




以上目次に沿って、橋本に関する記載をリストアップしてみました。
この本に紹介されている人物は、ほとんどが鍼灸を中心に行っている研究者 
臨床家です。
橋本は、鍼灸や漢方薬も扱っていましたが、物療を基本スタイルにしていた
市井の医師です。
全体の構成からみても、この本の中での、橋本の存在は特殊だと思います。
それだけ、この後紹介する藤田の理論に大きく影響を与えたのが橋本ということなのでしょう。

 

「経絡学入門 基礎編」で説かれている*5藤田 の理論
経絡とは、経穴とは  何を見つめていたのか?

P133 Ⅴ経絡の実証より
古典の経絡は、経筋、経水、経脈、という言葉で表現されている。
著者は、これに経膜を追加した。このことから著者は経絡現象を筋運動主因性管腔外液体波動通路膜系(筋主因説)と言う作業仮説を提案した。

・経筋(筋運動主因性)
・経水(管腔外液)
・経脈(波動)
・経膜(通路膜系)

*5経絡 論争期の経絡・経穴についての基礎研究」
山田 鑑照, 尾崎 朋文, 坂口 俊二, 森川 和宥
P539より
経絡
東洋医学の経絡は従来、経筋、経水、経脈の三種の断面で把握されているが、藤田はこれに 経膜という断面を追加した。
その上で経絡とは筋運動(経筋)により、一定の深さの筋膜(経膜)内にある 脈管外通路を体液(経水)の波動( 経脈)が流れる空間である(筋主因性流動通路膜系)であると位置づけた。この経絡空間の各々は、筋運動により生理的に発生する脈外的結合織(解剖的)及びこれに分布する知覚神経(生理的)によって2つに分かれる。


P379 結論より
東洋医学の経絡は西洋医学のこれから解明しようとしていた組織液の流れの方向を波   動として捉えていた。

ヘッド帯は人体の頭尾軸に対し、横の神経分画(体性知覚)である。
反射機構に関与するから神経中枢で統一される。

経絡は人体の縦の筋主因性流動通路膜系統である。体液循環機構であるから、主としてホルモン、ビタミンその他の体液成分の調整に関与する。
この両系統の交点にある各経穴は、臨床的には著者の発見した丘診点として把握される。

したがってこの点は、一方ヘッド帯を介して、さらに石川日出鶴丸教授の広義内臓体壁反射により、特異的な各内臓と神経線維により関連し、他方経絡主線を介して、すなわち各経絡固有な深度の筋膜(経膜)とその内の管腔(動脈・静脈・リンパ管・神経幹の内の3本を含む)との間において、ノルメルギー(Normergy)並びにアレルギー(All ergy)
の結果変化した管腔外結合組織の系統的な場を通じて,
特異的な内臓と運動力学的に関連する. .
(中略)

著者は、内臓漿膜と体壁漿膜との関連は、その運動力学的接点・接線あるいは接面において 、生理的には機能的に、病的にはさらに著明に、 組織癒着という形態的変化により、起こることを強調する。 

自律神経系、内臓のコンディションを反映した内臓体壁反射、脊髄神経の分節支配からとらえた横のライン。
抗重力の運動器バランスの縦ライン、
そして経穴は縦ラインと横ラインの交差点、であり反応点である。、(P361)


また、管腔構造で深度の違う体液循環機構とそれを包んでいる膜構造。
生命活動とは、これらのライン、構造が運動力学の法則により関係性をもって、
動いている、脈動しているということです。
そして、ときにそれが感覚的、機能的、器質的に異常な状態になれば、病的状態となるわけです。


筋膜リリースなどファッシア(Fascia) 筋膜、膜構造バランスに注目した理論が近年、話題になっていますが、藤田の理論、筋運動主因性管腔外液体波動通路膜系(筋主因説)
はまさにこのような時代の潮流を見越した研究でした。

超音波画像診断装置(エコー)などの診断器具の進歩により、従来分かりにくかった結合組織の状態や働きがリアルタイムで観察できるようになったことが研究の発展に拍車をかけたわけですが、藤田はすでに1980年初頭には自論を確立していました。
その先見性のある研究に大きく影響を与えたのが、橋本の運動力学的視点でした。

ただ、橋本はこのように当時の鍼灸界一線の研究者、臨床家との交流があったのにもかかわらず、鍼灸治療を調整のメインに据えず、運動系からのアプローチ、物療へのこだわりを持ち続けたのでした。




終わりに。
今回は、 「経絡学入門 基礎編」を通じて、藤田の理論に影響を与えた橋本の運動系の理論を改めて確認し、それがどのように藤田が展開していったのかを概観しました。
操体法に関して、橋本は結局、原理、理論として包括的、概論的な解説に終始し、学術論文的なものや詳しい各論的な症例検討報告は出しませんでした。

ただ、今回の藤田の理論、筋主因説や管腔、膜という概念で3次元的に動きのラインを見据えるなどの発想に今日的な知見を加味すると新しい操体法の展開ができそうな気がします。
今後、自分の臨床の中でこれらの理論を応用し症例報告を、発表できたらと考えています。


参考文献
*1 「経絡学入門 基礎編」藤田六朗著 創元社 1980年
*2 1972 (S47)/07/15 第41回全国講習会(松島)にて行われた講義音源は
川名が文字お越しし、現在日本操体学会会報誌「いさき」にて公開連載中

*3「歩み」非売品 藤田六朗著 昭和57年11月20日 
*4 異常 感覚と運動系の歪み(日本医事新報 1957年10月)
「正体の歪みを正す 橋本敬三論想集」1987年創元社 P254 
*5「経絡論争期の経絡・経穴についての基礎研究」
山田 鑑照, 尾崎 朋文, 坂口 俊二, 森川 和宥
日本鍼灸学会雑誌
2002 年 52 巻 5 号 p. 529-552



週刊あはきワールド 「未病を治す」~身体のゆがみをなおす~操体法シリーズ
川名執筆記事リスト

①操体法の原理を探る シリーズ 第4回

②「経絡学入門 基礎編」 藤田六朗著から読み解く、 橋本敬三と藤田六朗 二人の関係と理論 シリーズ 第6回

③橋本敬三の操体法操法の中にみられる姿勢 跪坐(きざ)についての一考察 シリーズ 第11回

④操体法的調整の特徴を探る 前編 ~梨状筋の調整テクニックを例に、他の手技療法との比較検討~ シリーズ  第22回

⑤操体法的調整の特徴を探る 後編 ~もう一つの仮説、循環改善によらない刺激変化とは?~ シリーズ 第23回





  • 操体法とは
  • 料金・流れ
  • ご予約
営業カレンダー
休日:木曜日・祝日(不定期で営業する場合もあります。カレンダーでご確認ください。)

とどろき縁側の予約枠は以下の時間となります。
火・水:①11:00~12:30、②13:00~14:30、③15:00~16:30
日:①9:00~10:30、②11:00~12:30、③13:00~14:30、④15:00~16:30
※上記以外の時間をご希望の場合はご相談ください。
※オンラインセミナー開催の日は、①②施術枠はございません。
予約ご希望の方は営業カレンダーご確認よろしくお願いいたします。

ご予約・お問い合わせ
090-6158-6367
受付時間:9:00~18:30