【前書き】
2019年8月から2021年8月までの3年間
有料 WEBマガジン 週刊あはきワールドに
「未病を治す」~身体のゆがみをなおす~操体法シリーズ
というタイトルでを各回 複数の臨床家や関係者が持ち回りで
操体法に関する記事を26回にわたって掲載しました。
川名もその中で 数本の記事を書かせていただいた経緯があります。
ただ、その後 週刊あはきワールドは終刊となってしまいました。
つたない文章ですが、読んでもらえる機会が減ってしまったので
今回編集長の石井利久様のご厚意で ブログへの公開を許可していただきました。
川名の記事を今後5回に分けて このブログに公開していきます。
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週刊あはきワールド 2021年5月19日号 No.714
「未病を治す」~身体のゆがみをなおす~操体法シリーズ 第23回
~もう一つの仮説、循環改善によらない刺激変化とは?~
実際、徒手療法の刺激は、からだをどのように変化させているのでしょうか?
徒手療法の用いるテクニックが与える刺激とからだの変化、影響は、刺激量の定量化が困難で、各個体の感受性の多様性(年齢差、性差、筋力、体力差)など、科学的に検証が難しく仮説の域を出ない部分も多々ありますが、考えられる刺激機序としては
、以下のようなものが挙げられます。
① 運動器への刺激 運動神経反射機序
骨格 筋 深部感覚 αγ連関
例)伸張反射による筋緊張バランスの改善、
② 自律神経系への刺激
内臓機能 血管平滑筋の調節(血管運動神経)
例;迷走神経刺激による消化器機能亢進、
三叉神経 顔面神経刺激による鼻づまり改善
③ 膜構造への物理的アプローチ
圧縮刺激 牽引(伸展)刺激 重力バランス 支点 軸
深部感覚(触圧覚)平衡感覚への刺激
実際は、一つの操作の中で、様々な機序が同時多発的に発動されているはずです。
ただ、最終的には循環が改善されることがからだの変化に寄与する大きなポイントだと
いえます。しかし、実際実験をすると意外とそうでない場合もあるということを
④ 膜構造への物理的アプローチという観点から 少し考えてみたいと思います。
特に操体法の自動運動に対する抵抗、動作筋肉の等尺性収縮状態という独特の圧縮刺激
が、膜構造に与える変化ついて考えてみました。
参考資料> 操体法写真解説集 橋本敬三監修 川上吉昭編 柏樹社 1979発行より
P60
『内転筋と視機能との関連について』 という記載があります。
橋本によると、この筋群(内転筋群)への刺激(操体法による緊張の緩和)により視機能が亢進することを明らかにされています。
中略
そこで、9名の被験者に、視力フリッカーテスト、網膜血管、脈波などの検査をしてみました。
その結果、視力の改善、フリッカー値の亢進が見られ、調整力(視器)が向上し、大脳興奮水準が高まったことが明らかになりましたが、網膜血管系には変化が見られず、視器の循環に関する機能が改善されたものではないことが明らかになりました。
(宮城教育大学川上研究室)
眼の機能改善と内転筋緊張緩和の関係について、
循環改善によらない刺激変化とは?どのようかことが起きているのでしょうか?
インプット 情報統合 アウトプットという刺激伝導系やホルモンや化学物質などの血流を介した液性伝達や循環機序で解釈するのではなく
機械的刺激の影響>構造的な変化の影響の可能性を探ってみました。
指ハブモデル
そこで、一つの構造と動きのモデルをご紹介します。
解説
指ハブは、沖縄に古くから伝わっている玩具です。
口側に指先を入れると、抵抗なく入るのに、指を抜こうとすると何故か、指が抜けなくなる
というものです。
何故ならば、
引っ張る>口径が小さくなる
縮める>口径が大きくなる
という構造の仕組みがこの草を編んだ玩具にはあるからです。
これは、単純な動きのモデル、原始的な生物の動きのモデルの一例ともいえるでしょう。
2点以上のポイント間の距離(例;蛇の頭と尾)を縮めるように圧縮をかける。
その間に存在する膜構造の径が太くなる。これを筋膜など膜構造に置き換えて考えると
膜に包まれている構造物、内臓、筋、脈管系間の滑走がよくなる
またお互い接しあう各筋膜間の滑走性が高まる。
結果 運動機能が向上する、よいことが起きる。ということだと思います。
呼吸や心拍動、運動などで生体は常に動きを伴っていています。
ですから、からだの内側の構造物は互いに密着しながらぶつかりあったり、
滑走したりしているわけです。
その動きがスムースに行われているのが健康な状態ですから、
似たような構造としては、アクチンとミオシンの滑走理論や入れ子構造の発想なども
ヒントになると思います。
ここで前回ご紹介した操体法の梨状筋調整の動画を改めて解説します。
伏臥位の操法で足首を把持して梨状筋に向かってやや圧をかけているのがわかるでしょうか?
股関節、膝関節伸展 足関節背屈位ですから下肢後側はストレッチをかけた状態からの圧縮刺激が入っています。
これは下腿後側の太い坐骨神経や大腿動脈などの経路に圧縮をかけている操法ともいえるわけです。
操体法の場合抵抗のかけ方も大事なポイントですが、このような、縦方向に走行する膜構造をイメージして圧縮をかけるつもりで抵抗をかけてみるのも面白いと思います。是非指ハブモデルのイメージで抵抗圧の方向を実験、工夫試してみて下さい。
気持ちよさとは
膜構造へのアプローチについて、指ハブモデルを使って従来とは違った視点から考えてみました。
運動性が上がると、いいことが起きるという、しごく単純な解釈ですが臨床家として運動器系にアプローチすることの有効性としてはこういった解釈もいいのではないでしょうか?
今回はあえて操体法の特徴である、気持ちよさという感覚や情動のバイアスをかけない中での解釈を試みました。
しかし、調整や治療というのは、多分にフィクション、物語や儀式としての要素を含んでいて、
実際、心理効果、情動へのアプローチからからだが変化していくという側面は無視出来ません。
だからこそ痛いほうから 痛くないほうへ
からだは治るように出来ている、原始感覚、ラク、快感覚からからだが変化していくという操体法の語るストーリーにいまだ多くの人は魅了されるのだと思います。
ただ、気持ちよさのバイアスをかけない中での検証で見えてきたのは、指ハブモデルのような生物としての原始的な仕組みと動きであり案外そのような仕組みにアプローチすることが、結果的には
原点回帰のような懐かしさや安心感、気持ちよさにつながるのかもしれません。
手技療法が及ぼすからだの変化についての研究、運動器や自律神経系に及ぼす影響について、橋本敬三先生が提唱していた当時より時代も経って検査機器や手法も発達したにも関わらずいまだ不明な点が多いです。
これからも一つの手技の発想に閉じこもらず様々な視点から地道な検証を行っていきたいと
思っています。
●指ハブ参考サイト
数学者が30年ぶりに発見した“神の数式” 沖縄の伝統的玩具「指ハブ」の仕組みを数学的に解明 #チコちゃんに叱られる
https://togetter.com/li/1592681